くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

人事戦略に必須の5つの要素、3つの制約要件

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 「戦略人事」に関する本が増えてきましたが、皆さんの企業では人事戦略を立てられているでしょうか?経営戦略については、「コストリーダーシップ戦略」とか「差別化戦略」といったように、定石のようなものが作りあげられ、展開されています。しかし、こと人事戦略に限っては、まだそのような定番といわれるような戦略はあまり作られていません。
 そのため、本項では人事戦略の定義・含めておくべき要素について紹介します。

1.人事戦略の定義と目指すべきゴール

 「人事戦略を立てたい」と考えている多くの企業では、明文化されているにせよされていないにせよ、企業のあるべき姿に対して、現状のギャップがあると考えているはずです。企業のあるべき姿は、財務ならば自己資本比率N%以上、マーケティングならば毎年N件以上の引合い獲得、生産なら月N個生産かつ不良品率M%以下・・・と言ったような形となります。しかし、人材のあるべき姿に関しては、数値化することが難しいばかりか、定性的な状態でさえ把握するのは難しいでしょう。


 人材のあるべき姿を定義しようとすると、人によって様々な価値観があり、非常に困難な作業になります。組織は「共通の目標を有し、目標達成のために協働を行う、何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションによって構成されるシステムのこと」であるというバーナードの定義に従って考えるならば、組織目標の達成が人事戦略のゴールと言えます。

つまり、

組織目標を達成できるだけの組織パフォーマンスを出すことが人事戦略のゴールであり、

人事戦略はあるべき組織のパフォーマンスに近づける為の施策をまとめたものであると言えます。

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組織のパフォーマンスを分解する

 組織のパフォーマンスを出す、と一口に言っても、まだ問題が大きすぎて考えるのには適していません。そのため、問題をもう少し切り分けてみましょう。組織のパフォーマンスは、所属している個々人のパフォーマンスの合計値と言えます。組織に所属している人たちそれぞれが成果を出すことで組織のパフォーマンスとなるわけです。

 そのため、ざっくり言うと個人のパフォーマンス×組織に所属している人数が組織のパフォーマンスとなります。が、実際の組織はそうはなりません。業務が重複してしまって効率が落ちてしまっていたり、逆にチームの連携が非常に良く取れていて効率があがったり、ということがおきます。 

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なので、組織効率についても考える必要がある訳です。つまり組織のパフォーマンスは個人のパフォーマンス×組織化による影響(組織の人数×組織効率)であるということがいえます。

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 次に、個人のパフォーマンスを分解してみましょう。個人のパフォーマンスの話をすると、個人が持っている業務を遂行するのに関連する能力に意識が向きがちになります。能力は確かに非常に重要な要素の一つです。しかし、人間は能力さえあれば成果が出せるわけではありません。能力があっても、モチベーションがなければ成果を出すことは出来ません。また、能力発揮の機会を与えられていなければ成果は出ないでしょう。 そのため、個人のパフォーマンスは以下の式で表すことが出来ます。

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これまでの内容をまとめると組織のパフォーマンスは以下の様に分解できると言えます。

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 ここで注意しておくべきことは、それぞれが足し算ではなくかけ算で表されているという点です。能力が0の人は、幾ら意欲や機会に恵まれていても成果を出すことは出来ないでしょう。同じように、どれだけ能力に溢れる人でも、意欲がなかったり、機会に恵まれなければ成果を出すことは出来ないでしょう。人数や組織効率についても同様と言えます。これら5個の要素はどれが欠けても成果に繋がらないわけです。(実際0以下の人はほぼ居ないとは思われますが)

 このように、課題を細分化して考えることは、一見回り道のように見えますが、打ち手を効果的にするのには非常に有効となります。「組織のパフォーマンスが目標とするものに対して低いから改善したい」と考えて、研修を行ったり、報奨金を追加したりしても、それが効果的な打ち手に繋がらないかも知れないからです。
 研修は能力向上に有効であることが多い施策ではありますが、求める組織のパフォーマンスを満たすべき能力は既に持っていて、意欲が足りない可能性もあるわけです。あるいは、個人のパフォーマンス向上ではなく、人員の増加が必要となる可能性もあります。 同様に、意欲向上の為に報奨金をたくさん支払っても、能力が足りない可能性があります。
 このように、現在の組織のパフォーマンスを最終的に目指したい組織のパフォーマンスに向けて変革していくためには、能力×モチベーション×能力発揮機会×組織の人数×組織効率に分けた上で、それぞれ現在の状態から、あるべき状態に向けてこれら5つの要素をどう変えていくのか・そして最終的には組織としてのパフォーマンスをどうやって高めていくのかということを考えるのが人事戦略(成果向上戦略)といえます。

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2.制約要件

 人事戦略の目的は組織のパフォーマンス向上にあります。しかし、多くの戦略がそうであるように、人事戦略にも制約要件となるべきものが存在します。 それは、①他の戦略との対応 ②法対応 ③経済環境や社会的志向の変化への対応 となります。

①他の戦略との対応

 最も大きい要素は財務戦略(ストレートに言うと人件費予算)による制約です。予算が無限にあれば採用も・育成も・意欲向上も可能となります。しかし、現実的にはそのような企業は存在しません。また、ビジネスモデルによる制約(一人一ヶ月当たりが出せる利益額以上の給与は支給出来ない)や、業務プロセスによる制約(対面で顧客と接しなければならない企業であればリモートワーク施策をとれない)といったものが考えられます。

②法対応

 最低賃金や解雇規制、有期雇用契約の上限年数や、同一労働同一賃金の対応といった最低限守らなければならないものは、戦略の大きな制約要件となります。

③経済環境や社会的志向の変化への対応

 法対応以外の個人の希望への対応についても検討が必要です。時間的な制約や(短時間勤務がしたい・柔軟な勤務時間を希望する)地理的な制約(出勤の可否・転勤の可否)、採用難易度や雇用の流動性、個人のキャリア志向をどこまで考えるかといったことが該当します。

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 「パフォーマンスの向上」が会社が従業員に対して求めていることであるのに対して、「制約要件への対応」は従業員や社会が会社に対して求めることへの対応であると言えます。
 会社の都合と個人や社会の都合とを合わせて考えていく必要があるというわけです。例えば、会社としては

・モチベーション上げて欲しいけれども
・財務的な制約で人件費は上げられない
・一方でいくらでも下げられるかと言うと最低賃金の制約があってある程度までしか下げることができない
・従業員は個人のキャリアをいろんな形で切り開いていきたい

こうしたそれぞれのニーズを統合して解決する方法を人事戦略で実現していく必要があるというわけです。

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3.人事戦略を立てることのメリット

最後に、人事戦略の活用イメージについて。戦略は、企業の各ステークホルダーにとって以下の様な効果を発揮します。

1.経営層にとって

経営戦略の実現の為に必要となる人的生産性の向上を実現することが出来る。

2.現場管理者にとって

 事業部戦略や機能戦略の実現が可能となる。また、人事制度や運用の軸が明確となる為、人事の理解が容易になるとともに、活用が容易となる。

3.従業員にとって

入社後のモチベーション向上及びスキルアップの指針となる。また、入社・退職の意思決定要素としても活用出来、ミスマッチ等による離職低減・ぶら下がりリスクを回避しやすくなる。

4.人事部にとって

無数に考えられる施策を選択する根拠として活用出来る。そのため、成果向上に繋がる。

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今日のまとめ

・人事戦略は組織のパフォーマンスをあるべき姿に近づける為に、従業員の能力、モチベーション、能力発揮機会及び、組織の人数、組織効率に対して働きかけるもの
・ただし、他戦略・法律・従業員の希望といった制約条件を考慮しておく必要がある

 

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http://www.sele-vari.co.jp/

 

 

参考

個人の成果は:本人の能力×モチベーション×能力発揮の機会 のかけ算。
LepakによるAMO理論(パフォーマンスは𝒇(𝑨𝒃𝒊𝒍𝒊𝒕𝒚 , 𝑴𝒐𝒕𝒊𝒗𝒂𝒕𝒊𝒐𝒏 , 𝑶𝒑𝒑𝒐𝒓𝒕𝒖𝒏𝒊𝒕𝒊𝒆𝒔) の関数で算出できる)を元に作成。
・やる気や機会がどれだけあっても能力が無ければ駄目。
・能力や機会があってもモチベーションが無ければ駄目。
・能力やモチベーションがあっても、それを活かす機会が無ければ駄目。

組織の成果は:個人の成果 × 人数 × 組織効率 のかけ算。
こちらについては、組織論のスターモデル及びマクシミリアン・リンゲルマンの社会的手抜き実験等を元に作成。
・如何に優れた人が居ても、1名だけであれば組織としての成果は変わらず(人数が必要)
・人数がどれだけいても、組織効率が低ければ意味が無い