くちばしコンサルティング

人事や経営を学べるブログ。中小企業診断士・人事コンサルタント山本遼が書いています。

「事業目標」と「人の質」をどう連動させるか

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本記事は上記連載の第6回です。

 

今回の人事制度設計は、事業目標達成の為の人事制度設計です。そのため、事業に関する視点と人事に関する視点から逆算していくと整理しやすくなります。以下の箱を埋めていくイメージです。

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左側が事業に関する視点、右側が人事に関する視点です。
そして、上が将来、下が現在や過去です。

 

左下には現在の業績が来ます。売上高○億円とか利益が×円とか、どんな製品やサービスを提供できているか、という言葉が入ります。

右下には現在の人員に関する情報を記載します。従業員は△人で、スキルレベルはどれぐらいか、どんな考え方をしている人が多いか などを記載するわけです。

左上には将来の事業目標を記載します。たとえば5年後に売上を倍にしたいとか、新製品を作りたいとか。業績目標や経営戦略を記載していきます。

右上には、左上を実現するために必要となる人の質や量を記載します。左上を達成するためにはどんな人が必要になるか?何人必要になるだろうか、ということを書いていきます。

 

そして、人事の施策として右下から右上に移るためにどんなことが必要になるだろうかと言うことを考えていくわけです。

 

今から人事制度を作ろうとしている人は、試しにこの箱を全て埋めてみることをお勧めします。セミナーなどでワークをやっても、人事の人は左側の戦略の部分をあまり把握していないケースが多いですし、経営側の人は右側があまり意識できていないことがあったりします。
また、人事も経営も、右上を書くときに筆が止まるケースが多いです。

しかし、右上のゴールを把握することなくして、人事の施策を作ることは出来ません。

ギャップを把握せずに施策に走るとどうなるか

 企業の方から「リーダーシップやロジカルシンキングの研修をした方が良いか?」と聞かれることがあります。確かにリーダーシップやロジカルシンキングなどは多くの企業で必要になるスキルです。しかし、そういった能力が必要とされていない企業なのであれば研修をやる意味はありません。また、既に従業員全員がリーダーシップやロジカルシンキングの能力を持っていたとしたらギャップが存在しないのでやる必要は無いわけです。

 こういった悲劇は、教育部門の人が「何か新しい研修を企画しなければ」ということで考えてしまっている時に起きやすいです。

 研修をやるのはお金の掛かることです。どうせ高いお金を払うなら自社の従業員にとって足りないところをケアするほうにお金を使うべきです。必要なものなら100万円でも使うべきですが、不要なものなら100円だって惜しむべきです。

 

人材要件の「質」を明らかにするには? ~求める人物像の設計の仕方~

自社にとって必要となる人物像を設計する方法は、大きく分けて2種類あります。演繹法(えんえきほう)と帰納法(きのうほう)といいます。

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*これは僕が勝手に呼んでいるだけですので、他社の人とかに突然話すと伝わらないです。

 

帰納法的な設計の仕方

帰納法というのは、複数の事象から共通するルールや一般論を抽出する方法です。
自社の中でエース・ハイパフォーマーと言われるような人たちに対してインタビューや業務の同行などを行なって、「何が成功要因になっているのか」を明らかにし、それを全社員に展開していくような考え方です。

 例えば、この例だとエースのABCさんにインタビューを行なった結果、成功している人たちはどうやらヒアリングと専門知識を重要にしているっぽいと言うことがわかりました。
そこから、これを他の従業員にも展開していこうと考えていくわけです。

 さらに、あまり成果を出せていない人たちにインタビューをかけることで、どうすれば失敗するのかということも明らかに出来ます。

 この考え方が向くのは人に依って出来・不出来が大きく異なる場合など、自社の中に勝ちパターンを把握出来ている人が居るような場合になります。

 

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演繹法的な設計の仕方

 演繹法というのは、一般論から事象を推測するというやり方です。バリューチェーンや業務フローをまず整理して、それぞれを成功させるためにはどんな能力やどんな行動が必要なのかなーということを考えていくようなイメージになります。

 例えば、「普通に流通している物をお客さんに売る」という営業スタイルをやっていた企業があったとしましょう。

 しかし、伸び悩みを感じたので、お客さんの悩みを解決出来るよう製品を(組み合わせたり開発したりして)提案し販売するというコンサルティング営業 というスタイルに移りたいなーと考えています。

 ただ、自社はコンサルティング営業をやったことがないので、自社の中でエースと言われる人たちはいません。

 勝ちパターンがわからないなら、コンサルティング営業の流れを整理するわけです。
すると、例えば以下のようになります。

1.お客さんの欲しいものや悩み、予算をヒアリングする
2.ヒアリングを踏まえて提案を作る
3.プレゼンする
4.受注する 

 そして、「ヒアリングにはどんな能力が必要かな?」「提案作成にはどんな能力が必要かな?」と考えていくわけです。

 すると、「自社の良い物を押しつけるのではなく、傾聴のスキルが必要そうだ」とか、「出来るか出来ないかを判断できる製品知識が必要だ」とかが判るわけです。
 同じように提案作成やプレゼンなどに必要になるスキルや行動を考えます。

 このように、演繹法で考える方法では、今までに無い事業を始める企業に向きます。また、自社の中にエースと呼ばれるような人が居ない場合では演繹法でしか考えようが無かったりします。

 あるべき業務の状態から逆算して考えていくと考えれば判りやすいかも知れません。

 

 しかし、留意しておかなければならないのは、あくまでも仮説にしか過ぎないということになります。「たぶんこれが必要なポイントだろうな」ということしか判らないわけです。
そのため、こまめに見直しをしていく必要が出てきます。

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「帰納法と演繹法、どっちをやればいいのか問題」の結論

 演繹法と帰納法どっちがいいのか問題は気になるところだと思いますが、結論としては「どっちもやってください」というところになります。
 求める人物像については企業が進んでいくべき指針となるので、ここで間違えるとどれだけ精緻に人事制度を作り込んだとしても意味の無い制度になるからです。

 ややキツい表現になりますが、進むべき方向を誤っているのであればどんな施策もキラキラ輝くゴミにすぎません。

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企業では人の質の観点が機能不全を起こしがち

 これだけ大事な人の質という観点ですが、多くの企業ではこれが機能不全になっているケースが多いです。具体的には以下のようなイメージです。

・経営環境が変わっているのに、人の質の見直しがされていない
・抽象的で曖昧
・存在しない・浸透していない 

 進むべき人の質の観点が無い、つまり「どんな人が居たらいいかわかっていない」のに、「良い人が採用出来ない」とか、「ウチの従業員は駄目な奴ばかり・・・」とぼやいているケースが多いわけです。

 そもそも「良い人ってどんな人」ということを定義することなしに人事戦略など採りようがないわけです。

 「善とは何か」を定義せずに人のことを偽善者呼ばわりするような理不尽を起こしてしまっているわけですね。