くちばしコンサルティング

人事や経営を学べるブログ。中小企業診断士・人事コンサルタント山本遼が書いています。

予測できる未来 人口動態分析で人事の打ち手に繋げよう

 年末になりました。「2019年の予想」系の番組が結構多いですね。割と著名なアナリストの方が、「2019年に株価はこうなる!」とかの調査をされていますが、それらの正答率はどのぐらいだと思いますか?
 ペンシルバニア大学のフィリップ・テトロックという教授が、Expert Political Judgement:How Good is It? How We Can know?(専門家による政治予測はどれだけ的中するか?)という本において、政治・経済評論家284人に対して未来を予測させ、その後どうなったかを調査するという方法で行なっています。結果は猿にダーツを投げさせる方がまだまし という刺激的な結果が出ています。つまり、確率は50パーセントとさほど変わらないと言うことですね。
 ということは、うちの猫が左に進めば景気が良くなる・右に進めば景気が悪くなるというようにして、景気予想をするのとほぼ変わらない結果なわけです。だからこれからみくりちゃんは世界初の経済アナリストネコと名乗っても良いということになります。(みくりちゃんによると来年も景気は良いそうです。良かったですね。)

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 冗談はさておき。著名なアナリストの方々もなんらかの根拠を持って予想をされているに違いありませんが、予想が難しいのは変数があまりに多いからです。つまり複雑すぎるから仕方ないということです。だから未来予想は難しいんです。

 しかし、企業の人事の皆さんは、比較的高い精度で未来を予想することが出来ます。これから従業員がどれぐらい増えるのか減るのか、ということです。占いやアナリストの予想など、様々な方法でみんなが未来を知りたがるのは、それに備えて、自分だけでもいい思いをしたいからです。 

 なので、今日は将来、従業員数が増えるか減るかの分析方法の一つをお伝えします

 

そもそも人口動態分析とは?

 人口動態分析ってどういうものか、概要を簡単に説明すると、企業の人口ピラミッドを作って、将来の予想をしようというものです。以下のようなイメージです。もちろん数字は架空ですが、だいたいの企業のトレンドに合わせています。

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 こういうグラフを書いて、「うちの会社このままだと高齢化が進みそうだぞ」とか「特定の年代が少ないじゃん!このままだったら10年後に管理職が少なくなってしまうよ」とか、そういうメッセージをみつけて、企業としての打ち手を考えていこうというものです。

 

人口動態分析のやり方は以下の通り。非常にシンプルです。

現在の人員数をグラフにする→過去の入退社の流れを元に数年単位でシミュレート→現象としての問題を抽出→打ち手を考える 

 

人口動態分析を行なうことのメリット

 人口動態分析を行なうことのメリットは、人事の中期計画を作ることが出来ることです。刹那的で、今現在起きている問題をケアすることに必死になりがちな人事の仕事を、未来志向に変えることが出来るわけです。

 また、「このままだと会社が高齢化してしまう」とか「若手の人数が少なくて困る」と言うような漠然とした不安を数値を持って喋ることが出来るようになるわけです。
 このブログでも何回か触れていますが、数字でもって喋るとそれだけで説得力がかなり増します。そのため、人事施策を説得力を持って伝えることが出来るようになるんですね。

 

具体的には

採用担当者はどれだけの人数を採用するべきかの検討を行なうことが出来ます。
人事制度の企画・運用担当者は、特定の年代に対するケアの必要性を見つけることが出来ます。
教育担当者は、不足している年代に対するケアを行なうことが出来ます。
労務担当者は、いつどのタイミングで退職金がピークになるかの予測を立てることが出来ます。 

 

 一方で、こういう数値に基づかないで施策を考えてしまうと以下のような問題が発生します。

・採用では、「去年20人採用した、だから今年も20人」とか「今年は景気が良いから30人」とかそういうことを考えてしまう。(だからバブル期に大量に採用した人の処遇に困っていたり就職氷河期やリーマンショック直後の採用を絞り込んだ結果中間層が減ってしまったりして困っていますよね?)

 

・人事制度や給与の担当者は、特定の年代で退職者が多いことに気付かず、あるいは気付いているにもかかわらず年功的な人件費配分をしてしまって、特に30歳前後の退職が多くなってしまっている 

 

 STEP1:現在のデータを整理する

まずは現在の状況を把握しましょう。最低限必要になるのは全従業員の生年月日のデータぐらいです。従業員名簿のExcelとかCOMPANYや奉行などのシステムから従業員のデータを引っ張ってきましょう。

 そして、生年月日のデータから、今何歳の人たちがいるのか?と言うことをExcelで計算させ、グラフにします。

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STEP2:将来予測のために必要になるデータの収集

 次に、「これからどうなるのか」を考えるためのデータを収集します。まだ施策(何人採用するのか)を考える段階ではありませんので、「このままいくとどうなるか」を考えることに集中します。
 必要になるのは二つ。「入社に関する情報」「退職に関する情報」の二つだけです。これらを、だいたい過去5年分ぐらい用意します。1年だけだと前年に特殊要素があった場合に異常値になることがあるし、10年間を取ると大変なので、まあだいたい5年ぐらいで良いかなと言うところです。

 

入社数に関するデータ

 新卒・中途問わず、採用したときに何歳だったかということを明らかにしていきます。

2013年度は22歳8名・23歳1名・24歳3名・30歳2名
2014年度は22歳5名・23歳3名・24歳・・・・・ 

 とやって計算していって、過去5年の平均を取るわけです。

 親会社や大きな取引先があって、50歳前後ぐらいの人を出向で受入れるなどの事情を持っている企業もあると思いますが、それもそれとして考慮しておけば良いでしょう。

退職者数に関するデータ

 定年になる前に退職した人のデータを集計していきます。これも、過去5年に退職した人の数と、その人の生年月日を出して、何歳時点で退職したのか、と言うことをだしていくわけです。
 一方で、定年退職の人は、過去5年のトレンドではなく、現時点の従業員の数で計算するべきです。定年退職については確実に退職することが判っているので、65歳で定年退職するのであれば、現在の64歳の人の数を数えれば良いですよね。 判ることはなるべく事実に即して、判らないことはある程度折り合いをつけるといところがポイントになります。

STEP3:将来予測を行なう

Excelで縦軸に年齢(18-65歳)をとり、横の列に現在の人員数をおきます。
そして、各年次で入社数を足し、退社数を引いて計算していきます。

22歳で5人・23歳で3人の入社が判っているなら、
来年は22歳に5人入社、23歳に3人入社・・・・65歳で8人退職、
再来年は22歳に5人入社、23歳に3人入社・・・・65歳で10人退職・・・ 

 ということを計算していくわけです。
(もちろん、今22歳の人は、来年23歳になるようにする計算は必要)

端数処理はどうしたら良いの? 

 そのときのポイントは、小数点以下の端数処理の仕方です。小数点以下を四捨五入すると極端に振れるし、小数点以下の人数をそのまま放置しておくと、数年後には500.8人になる!ということになりかねないからです。
22歳で入社する人数が5年平均で

・4.5人ということになるなら、4人→5人→4人の繰り返しにすれば良いです。

・4.3人なら、4人→4人→5人となるようにしていけば良いです。

 

細かいことに気が行く人は

ごく稀に、こういう細かい作業がでてくると異常なまでに精度を求める人が居ますが、動態分析の計算はある程度正確ならだいたいでいいです。「人口動態分析で予測できる未来を予測しておこう」とか言っておきながら、こういう言い方をするのはアレですが、あくまでも過去のデータに基づいた予想に過ぎないし、今500人の会社が5年後に498人になっているのか・497人になっているのかが何か大きな問題を起こすことはありません。 

 そんなことより、「グラフから何が読み取れて何をするべきか」について、解釈をする時間に充てた方が余程生産性は高いです。

 

 数十年単位でやるときは?

 この分析を数十年単位でやろうとするならば、日本の人口の増減率などを用いて計算すると良いでしょう。特定の年代が現在の100万人から、20年後には80万人に減る、と言うことが判っていたら80%を掛ける、などですね。

 

STEP4:グラフから読み取れることと施策を考える

 さて、ここまでで出た情報を元に5年後・10年後の人口動態が判るようになりました。これからは、これをグラフ化して、何が読み取れるか?ということを考えていきます。
 ここについては、あくまで人数しか判らないので、どの年代が少ないか(少なくなるか)・どの年代が多いか(多くなるか)を見ていけば良いです。日本のトレンド(人口ピラミッドやバブル期の入社組・先述した採用人数)のことなどから考えると、多くの会社でこれから40-50代の人数が異常に多い一方、現在の30歳前後の流出が多いという現象が起こっていると思います。

 

読み取れることと施策の例

単純に年齢構成だけを取って、○歳が少ないというのではなく、自社の人事制度などを合わせて考えてみると良いでしょう。例えば、以下のようなイメージです。

40-50代が多くなりそうだというときは?

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例えばこのような形になったとしましょう。

マネジャーとして上に上がっていくことだけが前提になっている会社では、40-50代の人数が多くなることが見込まれていると、将来はポスト不足が起こることが予想されます。そのため、これからはポストに就けなかった人の処遇を検討していくことが必要になります。

 例えば、専門職としてのキャリアを開発できるようにしていく(管理職にならない人を活躍させ、処遇を上げられる道を残していく)ということも考えられます。そうなると、人事制度の改定や、専門職キャリアを積んでいけるような教育の方策を考えられるかも知れません。
 あるいは年齢構成を維持していくために自社の子会社や取引先に出向させていく計画的に退職させるということも必要になるかも知れませんよね。さりげない退職の匂わせ方として、例えば「退職金や年齢給のピークを50歳に設定しておく」などの方法もあります。早く辞めたらお金がいっぱい入るよ、50歳以上までも居ても良いけど、徐々に下がっていくよ、というやり方です。
 ポジティブに考えていくなら、会社として成長することで、ポストを増やしていくという方策も考えられるでしょう。(若手の採用も合わせて考える必要があります)

30代の人口が少ない会社なら?

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 最近は転職のハードルは割と下がっていますし、どこの会社も人手不足と言うことで求人は割と多くある状況です。とくに技術系の採用は活発なので、30歳を前に退職をする人が結構多いです。 そのため、現在の30代の流出が多く、10年後には40歳が少ないことが見込まれる企業が多く見られます。 要は働き盛りの人が減ってしまって、管理職も居ない、という状況が起きているわけですね。

 

そういう会社で何をするべきか?

 

・・・答えは、企業によります。なんじゃそれって感じですよね。企業によるというか退職理由によります。退職理由を調べて、その理由を潰していくということです。多くは働きがいとか、先輩に魅力が無いとか給与が少なすぎるとかそういうことだろうと思いますが、こればかりは個別の企業で調べるしかありません。
とある企業では、退職者が特定の支店に偏っていて、その支店の責任者がパワフル過ぎて若手がついてこれていないようだ、と言うことが判りました。

 

今日のまとめ

人口動態分析は、比較的確実に未来を予測することが出来る。その中にはショッキングな情報が含まれていることがあるが、問題が起きる前に判ってしまえば、問題になる前に手を打つことができる!

 

次回は、人口動態を更に発展的に使う方法をご紹介します。