くちばしコンサルティング

人事や経営を学べるブログ。中小企業診断士・人事コンサルタント山本遼が書いています。

就職活動では、初任給は考慮しない方がよい。 / 賃金カーブの見方あれこれ

出身大学の近くに住んでいるので、たまに仕事終わりに大学生の就職相談を受けることがあります。就職相談を始めた頃は、エントリーシートの書き方とか、面接でなんて言えば良いか、というようなことがメインになるだろうなと思っていましたが、最近は売り手市場ということもあって、複数の企業から内定を貰う子が多くいます。つい最近も、「内定が出たA社とB社で悩んでるんですが、B社の方が初任給が高いのでこっちにしようかと思うんですが・・・」という相談を受けました。
 
会社を選ぶ基準は数あれど、「一生勤めるつもりで、金銭面で判断するなら初任給はほぼ無視して構わない」です。
 

 

そもそも生涯年収はどうやって決まるか

初任給は考慮しないべき理由として、初任給の高さは生涯年収にそれほど影響しないと言うことがあります。生涯年収とは、その会社に定年まで居たとして獲得できると見込まれる年収のことです。生涯年収を計算するためには「賃金カーブ」というものを考える必要があります。 賃金カーブとは、例えば以下のようなものです。
 

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生涯年収はこの賃金カーブの「下の部分の面積」になります。
例えば、1年目に300万円、2年目に350万円もらえる会社があるなら、300+350の650万円が生涯年収になるわけです。同じように65歳(70歳?)まで到達したとしても、考え方は同じようになります。
 
ちなみに、このグラフの下の面積のことを積分とか言います。(ただし、積分という言葉を使うと私大文系卒の方はアレルギー反応を起こすと言うことが研究によって明らかになっていますのでこの記事内では二度と使いません。ご安心ください)
 

給与は最終的にどこまであがるか?

最近初任給を上げている会社が多いようです。一部外資ベンチャーなどでは40万円なんて金額を設定している企業も多いようですが、多くの会社では上がったと言っても20万円を超えているぐらい。一方で、引退直前にもらっている金額は企業によって異なりますよね。30万円ぐらいで止まる企業もあれば、100万円を超えてくる企業もあるわけです。当然、本人の出世次第による影響を受けることもあります。
なので、まずは「給与は最終的にどこまで上がるのか」ということを考えておく必要があるわけですね。
 

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初任給が同じでも、最終的に到達する金額が違えば生涯年収は大きく変わる!

 

どうやって上がるか、も重要だったりする

また、最終到達金額が同じでも、上がり方は企業によって異なります。
 
例えば、昔ながらの企業では以下ようなカーブを描くことが多いです。(逓増型)

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古く言われているのは「銀行は30歳を超えてからぐっと上がる」みたいなことです。若いうちは我慢せよということですね。
 
一方で、以下のように直線的に上がる、というパターンもありますし

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最近増えているのは、最初の内は上がりやすく、後から傾きがなだらかになる(逓減型)というカーブです。

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初任給も同じ・最終到達金額も同じ、なら逓減型の方が生涯年収は多くなります。
 

賃金カーブから判ること

賃金カーブの形を見ると、その会社の評価の方向性が何となく判ったりします。例えば以下のようなイメージです。
 

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逓増型

一定まで給与を抑えて、ある程度の年齢(管理職昇格など)のタイミングから急速に上がるパターン。旧来型の日本企業で見られる。
ただし、これが悪だったり年功序列を助長しているとも言い切れない(管理職になると突然昇給する場合にこれが起きる)
 

直線型

能力や職務にかかわらず一定の昇給を行い続けた場合にこういった現象が起きる。(毎年○千円昇給することとした場合はこのようになる。)
 
 

逓減型

若手の間に一気に伸びてしまい、それからはあまり上昇しなくなるパターン。若手登用を進めたり、スキルに上限があるような業種の場合はこういったことが起きる。
給与レンジの考え方で、標準額までは上がりやすくする、などの方法をとると、レンジ内ではこのような昇給具合になる。(途中昇降格などが生じることになるので、最終的にこうなるかどうかはわからない)
 
 

若手の離職を防ぐなら?

2018年11月現在、景気の良さや雇用の流動性などから、従業員が30歳前後で離職してしまうことに悩んでいる企業は結構あります。世の中では30歳前後の人が欲しいから、やや高い金額を出してでも欲しいと思っている企業が多いから、処遇の良い会社に転職してしまうのです。
 
新卒の頃から育ててきて、これからだ!という時になって、離職されてしまうのは企業にとって非常にゆゆしき問題であったりします。そこで、「あいつらは裏切り者だぁ!」とか「最近の若い奴は薄情だよね」と言っていてもいいんですけど、皆さんの怒りが解消されるぐらいで問題は何も解決しやしません。
 
そこで、給与カーブの形を変えてみる、というのがポイントになります。 
要は、30歳までの賃金カーブを逓減型に作り直してやればよいというわけです。
 

賃金カーブの決定は「誰を優先するか」の決定でもある

賃金カーブは逓減型の方が若手の離職現象に効果的であることが多い、と前項で書きましたが、当然ネックになることがあります。それは、若手に多く配分すると中~高年層の処遇原資が少なくなると言うことです。企業が人件費の予算として準備できる金額には限りがあるため、若いうちは高く昇給するようにしたいのならば、ベテランの方々の処遇を高くするためのお金がなくなってしまうのですね。
 
今まで、「後になれば上がるから」と言われて我慢してきた逓増型の人たちが、給与カーブの変更によって逓減型に変わると、最終到達金額が低くなる可能性があるからです。

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※黒が実際の給与。 赤点線は逓増型のパターンの人の見込額。

 途中で制度が変わったことにより、逓増せず低く留まってしまう

 

これは、制度設計の場面でも非常に議論が紛糾する悩ましい場面でもあります。
 
「若手がかわいそうだから逓減型にするべき」
「逓減型を入れたらベテランがかわいそうだ。逓増型を維持するべきだ。」
という話になります。
 
皆さんなら、こういう場面に陥ったとき、どう判断しますか?
 
こういうとき、満足度とか納得度とかいう指標を使って判断をすると、プロジェクトは失敗することになります。なぜなら、全員が満足する決断など存在しないからです。(敢えて言うなら人口の多い、ベテラン層を優遇した判断を行なった方が満足度のスコアは上がりますが、人手不足とか若手のモチベーションアップとかいう経営課題は解決できません)
 
こういうときに問い掛けるべきは「会社としてどういう人を優先するべきか」ということを考えるのが重要になります。
給与の原資は決まっている。誰に報いれば経営課題は解決できるのか?と考えるわけです。
 

初任給が低い会社の採用担当が学生にPRするなら?

このブログの読者の方には採用担当の方もいらっしゃるでしょう。初任給が低いことが、採用力の無さに繋がっているのなら、上記のような説明を学生にしてあげると非常に有効であることが多いです。「うちの会社は初任給は低い。でもね、みんな生涯年収ってどうやって決まるか知ってる?実はね・・・」というような形ですね。こうやって説明することで、初任給を就活生の判断基準から除外することが出来るわけです。
 
「うちは初任給も低いし、最後まで年収が上がらないんだけど?」という皆さん。ならば「何故そんな会社に自分がいるか」を深掘りしてみればきっと就活生に伝えられる理由は見つかるはずです。自分探しの答えはインドに無し、鏡の中にありってことです。
 
 

今日のまとめ

・生涯年収は給与カーブの積分で決まる!
・初任給と最終到達金額が同じでも生涯年収は違うことがある
・若手の離職を防ぐなら、逓減型給与カーブで設計することが重要
 
 

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家の中で傘を干していたら、ねこが入ってきました。

 

中小企業診断士・人事コンサルタント 山本遼